滲出性中耳炎は雑音が多い中の聞き漏らしが多い

電車のアナウンスを聞き漏らす、自転車のベルを聞き漏らすなど、雑音が多い中で聞き漏らしが多い人は「滲出性中耳炎（しんしゅつせいちゅうじえん）」かもしれません。滲出性中耳炎を詳しく見ていきましょう。『ためしてガッテン』の「隠れ難聴かも!?」で紹介されていました。

滲出性中耳炎の症状に気づかない

東京に住む58歳の女性の耳に、滲出性中耳炎の症状が出たのは10年前。当時、女性は経理の仕事をしていました。頼まれたのはいつもの収支報告書の作成。月末までに済ませればよいと思っていました。ところが週明け、上司が仕事を催促。今週中という言葉を聞き漏らしていたようです。

このときは、自分がぼんやりしていたせいだと納得。体の異変だとは思いませんでした。しかし、そのうちに聞き漏らしが頻繁に発生。自転車のベルにまったく気づかず、接触してしまったこともありました。

この女性、なぜ滲出性中耳炎の症状に気づかなかったのでしょう？　じつは女性が聞き漏らすのは、周囲がガヤガヤしているときだけ。ほとんどの音は聞こえるので、異変に気づけなかったのです。

雑踏の中で右前方から声をかけてくる人がいるという事例で、人間の耳のメカニズムを説明しましょう。耳は、最初に右耳に入った音と少し遅れて入ってくる左耳の音の時間差から距離を特定するのです。ちなみに人間の耳は、10万分の数秒差を聞き分けることができます。

場所が特定できると、周りにあふれているさまざまな音から、その人の声だけを浮かび上がらせて音を聞き取ります。人間の視覚が両眼の視差で空間を把握するように、聴覚も両耳の音の差で音源を特定しているのです。

じつは滲出性中耳炎の症状は、片耳が聞こえない状態なのでした。片耳で聞いているため、雑音と特定の音を区別できずに聞き取れないのです。しかも、片耳が聞こえなくなるのも時々であるため、なかなか気づけません。

滲出性中耳炎の症状はなぜ片耳だけ、しかも時々出るのでしょう？　人間が音を捉えているのは鼓膜です。そして、鼓膜の内側の空間を中耳と呼びます。中耳は音の振動をさらに奥へ伝えるための密閉された空間です。

じつは中耳には、少量の水が入っています。これは老廃物の排出や鼓膜の保湿のためです。しかし、この水が多すぎるのも都合が悪いもの。そこで中耳には、老廃物とともに中耳の水を鼻へと逃がすための耳管という管が存在します。

耳管はふだんはピッタリ閉じていて、開くのはあくびをしたときや何かを飲み込んだときなど。よくエレベーターで耳がキーンとしたとき、つばを飲み込むと治るのは、気圧の変化で生まれた中耳と外気の気圧差を、この耳管を開くことで調整しているからです。

そして、滲出性中耳炎の症状で片耳だけが時々聞こえなくなっている人は、この耳管が開きにくくなっています。耳管が老化して水が抜けずに、中耳に水がたまってしまっているのでした。

この状態で下を向いたりすると、中にたまった水が鼓膜側に移動。このために、聞こえにくくなるのです。姿勢の傾きで移動した水によって、鼓膜が振動しにくくなってしいます。

この滲出性中耳炎は50歳以上から急増する病気です。子どもがよくなる中耳炎は、鼻から細菌が入って炎症をおこすもの。一方の隠れ難聴とも呼ばれる滲出性中耳炎は、痛みがないためなかなか気づきません。

「頭を傾けたとき聞きにくくなる」「耳が詰まる感覚」「耳ツーンがとれにくい」などの症状があったら滲出性中耳炎の可能性があります。

ちなみに滲出性中耳炎は子どもにも多い病気。これは耳管がまだ発達していないためにおこるもの。そして、50歳を過ぎて老化が進むと耳管が機能しなくなってきて、高齢者に発症するようになるのです。

また、高齢者に発症することが多いため、加齢によって耳が遠くなると勘違いする人が多いのも「隠れ難聴」といわれる理由。本当は治る滲出性中耳炎であることに気づかずに、補聴器を付けている人もいるとか。実際、滲出性中耳炎の治療をしたら補聴器も不要になったという人もいるのです。

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